2026年7月22日
前回のコラムでは、「便が細い=大腸がん」とは限らず、食事量の減少や便秘、過敏性腸症候群(IBS)、大腸憩室症など、さまざまな原因で便が細くなることをご紹介しました。
患者さんからよくいただく質問があります。
「なぜ大腸憩室症で便は細くなるのですか?」
今回は、その理由を最新の研究と日々の内視鏡検査の経験をもとに解説します。
大腸憩室症とは?
大腸憩室症とは、大腸の壁の一部が袋状に外側へ飛び出した状態です。
加齢とともに増える病気で、50歳頃から多くなり、70歳以上では約半数にみられるとされています。
多くは無症状ですが、
- 便秘
- お腹の張り
- 下腹部の違和感
などを伴うことがあります。
内視鏡検査でよく経験すること
私は毎日のように大腸内視鏡検査を行っていますが、多発大腸憩室症の患者さんには共通した特徴があります。
それは、
S状結腸が短く、硬く、空気(CO₂)を入れても十分に広がらないことです。
さらに、
- 腸が蛇行している
- 折れ曲がりが強い
- スコープが通りにくい
ということも少なくありません。
また、「以前より便が細くなった」と話される患者さんもよくいらっしゃいます。
なぜ腸は硬くなるのでしょうか?
以前は、「腸の筋肉が厚くなるため、腸が狭くなる」と考えられていました。
しかし近年では、それだけではなく、腸管壁全体が少しずつ作り変えられる「リモデリング(remodeling)」が起こることがわかってきました。
リモデリングとは、建物をリフォームするように、組織を構成する材料が少しずつ入れ替わり、性質そのものが変化していく現象です。
大腸憩室症では、腸の弾力を保つエラスチンが増えて結腸ひも(taenia coli)が短くなり、腸全体が縮みやすくなります。また、腸を支えるコラーゲンや**細胞外マトリックス(ECM)にも変化が起こり、腸の壁は硬く、伸びにくくなります。
その結果、内視鏡で空気を入れても十分に広がらず、便が通るときにも腸があまり拡張できないため、以前より便が細くなることがあります。
IBSでは仕組みが異なります
一方、IBS(過敏性腸症候群)では、腸の構造そのものは正常です。
内視鏡検査でも異常が見つからないことがほとんどです。
それでも便が細くなることがあるのは、ストレスや自律神経の影響で腸が一時的に強く収縮するためと考えられています。
そのためIBSでは、
- 日によって便の太さが変わる
- ストレスが強い日に細くなる
- 排便後に症状が軽くなる
といった特徴がみられます。
つまり、大腸憩室症とIBSはどちらも便が細くなることがありますが、その仕組みは全く異なります。
大腸がんとの違い
便が細いという症状だけでは、大腸憩室症、IBS、大腸がんを区別することはできません。
しかし、大腸がんでは
- 最近になって便が細くなった
- 徐々に症状が進行する
- 血便がある
- 貧血を指摘された
- 体重が減ってきた
といった症状を伴うことがあります。
このような場合には、大腸内視鏡検査を受けることをおすすめします。
まとめ
「便が細い」と聞くと、大腸がんを心配される方は少なくありません。
もちろん、大腸がんが原因となることもありますが、実際には便秘やIBS、大腸憩室症など、より頻度の高い良性の病気でも便は細くなります。
一方で、「以前と比べて明らかに便が細くなった」「血便がある」「体重が減ってきた」といった変化は見逃してはいけないサインです。
気になる症状が続く場合には、一人で悩まず、消化器内科にご相談ください。大腸内視鏡検査によって原因を確認し、安心につながることも少なくありません。
参考文献
- Whiteway J, Morson BC. Elastosis in diverticular disease of the sigmoid colon. Gut. 1985;26:258-266.
- Tursi A, Scarpignato C, et al. Colonic diverticular disease. Nat Rev Dis Primers. 2020;6:20.
- Wedel T, et al. Morphological basis of diverticular disease. Best Pract Res Clin Gastroenterol. 2002;16:529-543.
- Drossman DA, et al. Rome IV Functional Gastrointestinal Disorders. Gastroenterology. 2016.