ピロリ菌・胃潰瘍・胃がん
ピロリ菌・胃潰瘍・胃がん
ピロリ菌は、正式にはヘリコバクター・ピロリと呼ばれる細菌で、らせん状の形をしています。通常、胃の中にいる細菌は強い胃酸によって死滅してしまいますが、ピロリ菌はウレアーゼという酵素を作り出し、強い酸性の環境の中でも生き延びることができます。
主に経口感染で広がると考えられています。以前は、衛生環境が整っていない地域で井戸水や湧き水を飲むことが主な感染経路でしたが、現在では感染者の両親や祖父母からの経口感染が多いとされ、特に乳児に対して食べ物を口移しで与えることや、スプーンや箸を共有することが主な感染経路として指摘されています。
日本では50歳以上では約70~80%がピロリ菌に感染していますが、衛生環境の改善により、若年層の感染率は減少傾向にあります。20代~30代では10~20%とされており、特に感染しやすいのは免疫がまだ十分に発達していない乳幼児期(特に4歳以下)です。そのため、通常、大人が日常生活で感染したり、除菌治療後に再感染することは稀です。
ピロリ菌に感染しても、感染そのものによる症状はほとんど現れません。多くの人では、感染によって慢性的な胃炎が引き起こされますが、胃炎自体には自覚症状がないことが多いです。
ピロリ菌に感染すると胃に炎症を起こします。胃・十二指腸潰瘍の患者さんの約90%は、ピロリ菌が原因で胃・十二指腸潰瘍になっています。ピロリ菌を除菌すると胃・十二指腸潰瘍の再発率は著しく下がります。また、胃がんとの関連も指摘されています。
他にも、ピロリ菌はMALTリンパ腫という胃のリンパ腫や、血小板減少性紫斑病といった病気の原因となることもあります。
ピロリ菌の有無を調べる検査には、大きく分けて胃内視鏡を使う方法と使わない方法があります。これらの検査を複数行い、全てで陰性であったものをヘリコバクターピロリ菌「陰性」、1つでも陽性となったものを「陽性」と判定します。
迅速ウレアーゼ試験
胃の組織を採取して、ピロリ菌が作り出すアンモニアによる反応を試薬で調べます。
鏡検法
採取した組織を染色して、顕微鏡でピロリ菌の存在を確認します。
培養法
採取した組織を培養して、ピロリ菌が増えるかどうかを見て判定します。
尿素呼気試験
検査用のお薬を飲んでいただき、一定時間経過した後の息(呼気)にピロリ菌の反応が出るかを調べます。身体の負担が少なく、簡単で感度も高い検査です。
血液、尿検査(抗体反応)
ピロリ菌に感染していると体の中に抗体ができます。血液や尿を採取してこの抗体の有無を調べます。
便中抗原検査
便中のピロリ菌の抗原を調べます。
2種類の抗生物質と胃酸分泌を抑制する薬、計3種類のお薬を1週間服用します。これで約90%の方のピロリ菌を駆除することが可能です。この治療は保険診療です。
除菌後の再感染率は年間1-2%程度です。ひとたび駆除ができれば、再感染することはまれです。
現在、ピロリ菌陽性患者に対する1次除菌および2次除菌不成功例に対する除菌治療については保険適用となっていないため、自費診療となります。
ペニシリン系の抗生剤(アモキシシリンなど)にアレルギー反応の既往がある方に対して、ペニシリン以外の抗生剤を用いて除菌治療を行っています。
大多数の方は、何事もなく除菌治療を終えますが、副作用として軟便や下痢が報告されています。また、頻度は高くありませんが、味覚異常、肝臓の数値の異常などもあります。注意していただきたい副作用は、発熱を伴う下痢や血便、じんましんなどです。これらは極まれに出現することがあり、放っておくと悪化する可能性があるため、このような症状が出た場合は速やかにご来院ください。
ピロリ菌の感染と胃がん発症は大きく関係しているため、ピロリ菌の除菌治療を行うことで、胃がんの発症リスクを軽減することが可能です。ただし、除菌治療を行っても胃がんのリスクがゼロになったわけではありません。除菌後の方は胃粘膜の萎縮が残るため、もともとピロリ菌がいない方に比べると、胃がんの発生頻度が高いことがわかっています。また、胃がんの原因はピロリ菌だけでなく、塩分の過剰摂取や喫煙、食生活とも密接に関連しているといわれています。ピロリ菌が陰性であっても、胃がんを早期の段階で見つけるためには、1年に1回の定期的な胃内視鏡検査が重要です。
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